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世界中の本好きのために

坂村健

Profile

1951年東京生まれ。 1984年からオープンなコンピュータアーキテクチャTRONを構築。TRONは携帯電話の電波制御をはじめとして家電製品、オーディオ機器、デジタルカメラ、FAX、車のエンジン制御、ロケット、宇宙機の制御など世界中で多く使われている。現在、いつでも、どこでも、誰もが情報を扱えるユビキタス・ネットワーキング社会実現のための研究を推進している。 日本学術会議会員。2002年総務大臣賞受賞、2003年紫綬褒章、2006年日本学士院賞受賞。著書に『ユビキタスとは何か』、『変われる国、日本へ』、『不完全な時代』、『毛沢東の赤ワイン』など多数。

Book Information

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TRONがつくりだす未来



純国産コンピュータ・アーキテクチャーである「TRON」のプロジェクトリーダーとして、世界にその名が知られる坂村健さん。家具、住宅、ビル、ミュージアムなどのデザインも手がけ、執筆や講演活動も精力的にされています。2003年には紫綬褒章を受賞されました。「少しでも技術が進んだ未来の社会を見てみたい」という坂村さんに、未来のコンピュータと人間の関係について伺ってきました。

電脳建築家は世界を飛び回る


――YRPユビキタス・ネットワーキング研究所について伺います。


坂村健氏: 2002年に作られたYRPユビキタス・ネットワーキング研究所は、世界で唯一のユビキタスコンピューティング技術の専門研究所です。研究成果を伝えるため、国際会議に呼ばれたり、学会で発表したりしています。「他の国においても役に立つのならば」ということで、協力して、協同プロジェクトもたくさんやっています。この研究所と、同じく私がセンター長を勤める東大大学院情報学環のユビキタス情報基盤研究開発センター、それから私の東大の研究室は常に協力関係にあります。

――ずっと提唱されてきた「ユビキタス社会」に向けて、世界的に関心が高まってきています。


坂村健氏: コンピュータの未来をみすえた研究を軸として、それを広めることを意識しながら活動していたので、関心が高まったのは本当に嬉しいですね。今までのコンピュータネットワークは、人と人との間のコミュニケーションを助ける「道具」でした。人と人とが繋がって、その次にくるのが人と機械、機械と機械のネットワークです。

例えばセンサーなど温度や湿度がわかる機械を、ビルや窓の外、人間のいるところに置いておくと、そのデータをみて、人間のいる場所が快適な環境を保つために、どうすればいいか――必要であれば窓を開けるとか、雨が降ってくると窓を閉めてエアコンのスイッチを入れてくれるとか。そういった複数の機器を連携した制御は、今は個々の機器がバラバラなので人間が個々に操作する必要があります。しかし、ネットでコンピュータ同士が繋がっていれば、自動で出来ることです。そういうように、あらゆるものをネットワークに繋ぐというコンセプトを私は以前から「ユビキタスコンピューティング」と呼んで研究してきました。今は、「IoT (Internet of Things)」、とか「M2M(Machine to Machine)」、とか「CPS (Cyber Physical Systems)」などと、色々な名前で呼ばれていますね。

――さらなるネットワーク化がもたらす未来とはどんなものでしょう。


坂村健氏: 今は「ビデオを、スマホで予約する」というコントロールに焦点が当てられていますが、ビデオ機器をメンテナンスしたりするために必要な情報を管理する事も出来ます。例えば、ビデオを止めているにも関わらず、異常な量の電流が流れているとか、そういうデータをどんどんコンピュータで集めると、ビッグデータとなります。大量のビデオをネットに繋いで、故障したビデオにどれだけ電流が流れたかというデータを集めるとその統計データから「これは壊れるんじゃないか」という予測もできるようになります。

――さらに応用されると……。


坂村健氏: 発電所や産業機械、あるいはジェット機や旅客機もそういうデータにより「故障しそうだ」とわかるだけでも安全性も高まりますし、壊れるまえに補修しておけばはるかに安く上がります。さらにデータを元にした効率的な運転制御でロスも減って環境にもいいし運転コストも下がります。そういうのを「ビッグデータ」とか「ビッグデータ解析」といいます。コントロールするためだけにネットに繋げるのではなく、そういうデータを集めることにも世界的に興味が集まっているんですよ。それがユビキタスコンピューティングという分野なのです。

――ユビキタスコンピューティング環境を実現する重要な組み込みOSとなった「TRON」は30周年を迎えます。


坂村健氏: 「TRON」というのは「The Real-time Operating system Nucleus」の略。30年前から始めた「TRONプロジェクト」は、当時始まったばかりの機械のマイコン制御で肝心のシステム開発環境が整備されていなかったから、それを整えようということから始めました。「Embedded system」(組み込みシステム)で重要なのが、状況の変化に素早く対応できる「Real-time」(実時間)性です。
ただ、昔はネットワーク環境がそこまで整っていなかったので、マイコン入りのジャーや、マイコン入りのカメラといったように、それぞれが独立していました。しかし、私は、将来それらがネットで繋がれて協調動作するユビキタスコンピューティング、「IoT」や「M2M」の世界が来ると思って、基礎的なところをずっとやってきました。TRONは、今は色々な分野で使われていて、衛星やカメラ、デジカメ、色々な電子楽器などをコントロールしているのです。この「TRONエコシステム」というものが下地にあったからこそ、21世紀になって、それらがネットで繋がるという世界になっていく時、TRONだとやりやすい。時間はかかりましたが、インターネットが普及してやっとそれが見えてきたわけです。

オープンアーキテクチャーで、人類の進歩を加速度的に進歩させる


――「オープンアーキテクチャー」の発想が、世界的な広まりに大きく貢献していると思います。


坂村健氏: 「TRON」はタダだったんですよ(笑)。プロジェクトを始めた84年の段階からのぶれない哲学です。「コンピュータが入って、こういう機械がどんどん出てきたらこうなるな」と思っても、その全部を自分で作るのは大変。だからOSだけでもタダにすればそのOSの上に、誰かが足りないソフトを作ってくれる。そうすれば、自分が描いていた未来が早くくることになる。ものを作るためには、TRON以外にもやらなくてはいけないことがたくさんあります。そもそも個々の機器は作らないといけないし、機能やアプリケーションなど全部をやるのは1人でやるのは無理だし、お金もかかる。いくらいても、人が足りないのです。

――それで、OSをタダにしちゃおうと(笑)。


坂村健氏: 自分が生きている間に加速度的に人類の技術を進歩させたいのです。常々「賢いモノを駆使した世界を見てから死にたい」と言っています(笑)。だから、どんどんオープンにしています。タダにしたことによって色々な人がいろいろなものをTRONを使って作ってくれたから、すごく効率がよかった。TRONを使って色々なものを作ってくれた人たちがいたから、こういう便利な世の中になったのだと思います。

アポロの月面着陸で感じた「コンピュータは偉大だ」という想い


――その想いの源となる、先生とコンピュータとの出会いはどのようなものでしたか。


坂村健氏: 「コンピュータは偉大だ」と思ったのは、高校生の終わり頃に、アポロが月に行った時です。宇宙についての謎は21世紀の今でもまだ解明されていませんが、少なくとも20世紀以降は「とにかく宇宙は広い」ということをくらいは、みんなわかっていました。そういう未知の場所に人類が出た時代でした。そのアポロを飛ばしていたのが、今から見ると非力ですが当時最先端のコンピュータだったのです。人類は、力がないからブルドーザーのようなものを作ったし、速く走れないから、ジェット機も作りました。それで1つ残っていたのは頭。考えることを増幅できるような機械があれば面白いと考え、コンピュータをやろうと決めました。

当時はまだコンピュータの黎明期で、軌道計算をするとか在庫管理をするとか数を扱う「電子計算機」の域を出ず、知的な活動のサポートというような時代ではありませんでした。みんながコンピュータを使って文字を書くという時代でもなかったし、コンピュータもまだ大きかったので、それが機械の中に入るという時代ではありませんでした。あまりみんながやってなかった事もあって、私はそこに興味を持ったのです。

子どもの頃から好きだったSF小説も、この道に進む大きな要因になったと思います。科学や技術自体の興味だけではなくて、社会制度や変革、どうやって人類は発展していくのか、人類の未来についても興味が広がっていました。SFというのは思考実験をする小説ですから、嫌いではありませんでした。今から20年以上前に、『電脳都市』という本を書きました。その本は、コンピュータ科学者として、SFに出てくるものは、本当か嘘かというのを真面目に論じたものとなっています(笑)。

――『痛快!コンピュータ学』は、文系にも読みやすいものでした。


坂村健氏: 教科書にもなったりしていると聞くと、嬉しいですね。文庫になって、今でも毎年増刷しています。基礎原理のことを書いたから、10年前も20年前もあまり変わらないんです。古くなるハウツーではなく基本原理、ベースの部分が書いてあるので色褪せません。

――『毛沢東の赤ワイン』では、そういった先生の思考が良く表れていると感じました。


坂村健氏: 交渉術とか、どう考えているとか、どうやって人に広げているのかということが書かれています。自分が昔書いた本を読んで「若いときの自分は良いこと言っている」などと感心していたら、女房から「自分の書いたものに感心するって。何を言ってるの」とあきれられています。(笑)。

枠組みにとらわれず、発想を変えること


――様々な変化に対する未来予測を、多くの本に記されてきました。


坂村健氏: 技術が変われば、あらゆるものが変わっていきます。でも人間は変われたからこそ、生き延びることができたではないかと思うのです。黙っていても、地球はどんどん変わっていきます。厳しく言えば、人間が地球を変えたという話もありますが、この瞬間にも宇宙も地球も動いている。気候の変動に対しても、生きていけるだけの知恵を出さない限り、人間は滅びてしまいます。自然の力はすごいということに関しては、最近、日本人は嫌というほど再確認をしていますよね。恐竜が滅んだのも、人工的なものではなく、おそらく宇宙から飛んできたものや、自然が原因だった。だから、そういうものに適応できるということが重要なのです。

本に関しても同じです。確かに紙の本にはノスタルジアもあると思うし、そういうものが好きだという人はいるかもしれないけど、オーディオもアナログからデジタルへという流れになりましたよね。資源という面においても、今の調子で木を切っていけば、結局は人間がお陀仏になってしまう。

特に高齢者は字を拡大できたり、いつでもどこでも読めるとか、やっぱり電子書籍の方が便利だったりする部分もあると思います。私も、雑誌を読むのはあれば電子ブックだし、電子化されてないものがあれば、ほとんど自分で自炊して入れています。世界中に行く時に、紙の本だったら、それだけでトランクがいっぱいになってしまいます。だけど電子だったら、100万冊だって持っていけますよね。

――一側面だけでは見えてこない、いろいろな可能性がありますね。


坂村健氏: 音を出したり、メディア変換するといったように、目の不自由な方に対するアクセシビリティも上がっていますよね。だから電子ブックの可能性は大きいと私は思っています。それにはやはり新たな業種の参入ではないでしょうか。また、それと同じくらい大切なのは、本に携わるすべての人に目を向けること。本は著者だけではなく、編集者と校正者、デザイナーによって出来上がります。紙であれ電子であれ、彼らがいなければ、みっともないものになってしまいます。

今、日本では電子化の流れが中途半端ですね。それは否定的に捉えられる面もありますが、日本の書店の数、印刷技術の素晴らしさの結果とも言えます。まだ紙の本に対して未練がある。過渡期にどうつなげていくか、書店の役割も重要だと思います。



人類社会を支える基盤作りを


――新技術は、モノだけでなく「東京ユビキタス計画・銀座」のように生活に根ざしたあらゆる場面に応用されています。


坂村健氏: 「誰もが安心してまち歩きを楽しむことができるユニバーサルデザインのまちづくりを目指す」ということで、すでに5000個ぐらいのコンピュータ付き電子マーカが、銀座の道路など、あちこちに埋め込まれています。あと、箱にも電子マーカを付けて物流の管理に使うとか。道路の中に埋め込まれているコンピュータを白杖で叩くと、今、自分がどこにいるというのが音で聞こえてくるようなシステムの実験なども、たくさんやっています。あと火災報知器などにもコンピュータを付けて、いつ誰が付けたかとか、どこのメーカーのものなのかというのがわかる。将来は、牛肉のパッケージや大根など、食品にまでコンピュータが付けば、クラウドに送ってやると、製品に欠陥があった時はすぐわかります。こういうことができるようになる。

――今まで出来なかった事が、「TRON」によってどんどん出来るような未来に。


坂村健氏: 全く何もないところから作り上げるのは、楽しいものです。産業とか、もっと大げさに言えばこれからの人類社会を支えるそういう基盤、インフラを作るというのが、「TRON」の役目の一つだと思っています。この三十年間を検証して、オープンアーキテクチャーの重要性、オープンデーターの重要性を再確認しました。私の職務である、「人を育てる」ということも、もっとやっていきたい。未来を切り開いていけるような人を育てたいと思っています。

(聞き手:沖中幸太郎)

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