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世界中の本好きのために

石黒浩

Profile

1963年、滋賀県生まれ。工学博士。山梨大学助手(工学部)、大阪大学助手(基礎工学部)、京都大学助教授(工学研究科)、和歌山大学助教授、教授を経て、2003年より大阪大学教授。社会で活動できる知的システムを持ったロボットの実現を目指し、これまでにヒューマノイドやアンドロイド、自身のコピーロボットであるジェミノイドなど多数のロボットを開発。2011年大阪文化賞(大阪府・大阪市)受賞、2012年志田林三郎賞(総務省)受賞。「世界が尊敬する日本人100人」(ニューズウィーク日本版/2009年)に選出など、最先端のロボット研究者として世界的に注目されている。

Book Information

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論文は電子で読む、情報系なので電子化への乗換は早い


――電子書籍についてもお伺いします。


石黒浩氏: いまは紙で出版したものは、その後、すべて電子書籍になる流れになっているのでしょうか。最近は、出版後比較的すぐに電子書籍に関するの契約書が送られてきます。新しく出版される本はみんなそうです。大体、半年から1年ぐらい紙の本を売って、それで爆発的にいかなかったらすぐに電子書籍になります。売れている本でも電子書籍になりますけれど。研究者と言う立場で言うと、僕らは論文に関しては、もう電子書籍しか読まないですね。いちいち紙の論文は持って歩けないです。

――いつ位から、そういった変化を感じられましたか。


石黒浩氏: 僕らは90年代前半からインターネット漬けですからね。もうその時すでに研究を全部インターネットの上でやっていました。僕は情報系なので日本に最初にインターネットが入ったころからネットを使っています。

――では、もう何をいまさらというような感じはありますね。


石黒浩氏: そうですね。遅すぎるとも思うんです。

電子書籍の普及を妨げるものとは


――電子書籍が普及に足りないものは何だと考えますか。


石黒浩氏: マルチメディアになってないことですね。電子書籍だったら、そこに画像を貼りつけるだけでなく動画も貼り付けることが出来るけれども、そういったマルチメディアを意識した文章構成になっていないでしょう。中身は紙の本のままですね。だからウェブにしても本にしても新しいメディアになりきれていなくて、単に既存の本のコピーになってしまっていると思います。

――なぜまだ既存の本のコピーから脱却できないのでしょうか。

石黒浩氏

石黒浩氏: 簡単に書けないから、編集が面倒臭いのでしょうか。あとは著作権の問題もあるし、映像を作るのに手間がかかるのかもしれません。文章としての本に関してはKindleが登場して、かなり良くなったと思います。ただ大きな意味で、電子書籍の可能性というものを探った場合には、もっと多次元的に組み合わせられると思います。なぜ組み合わせないのかなと疑問を感じます。もったいないですね。誰かが新しいものを発明すると、全部がつながる可能性はありますよね。

――全部つながった結果、大きな変化が起こるのでしょうか。


石黒浩氏: 今まさに、電子書籍をはじめ、コンピューターの力をフルに活用した結果、「出版とはこうあるべきだ」というものを誰かが作ろうとしていると思います。そうすると出版業界の世界も、一気に変わると思います。携帯電話は一気に変わりましたよね。そういう変化はまだ来ていないですね。

普及までには、様々な形式が存在し、その中から主流になるものが出てくる



石黒浩氏: ウェブがはやる前も同様に、いろんなタイプのウェブがあったんです。その当時、何でHTMLやいまのような形のウェブがはやるのか、僕ら研究者はちっともわからなかったんですけど、結局今の方式に1年ぐらいで全部塗り換えられたんです。HTMLになるまで、それまでいろんな種類があったんです。検索エンジンもそうですね。GoogleやYahoo!、infoseekとかいろんなものがあった。でもあっという間にGoogleが主流になったでしょう。そういうことが多分、電子書籍の世界ではまだ起こっていないんですよ。もうじき起こる可能性はありますよね。

――主流になりえる要素はどんなところだと思いますか。


石黒浩氏: 誰でも飛び付けるような簡単なもの、ですね。HTMLは、コンピューターの言語としては評判は良くなかったんです。では何が良かったかというと、簡単に使えた事だったんです。要するにコンピューターの言語としての美しさを捨て、多くの人が使用できるという簡易性を採った。そこに多分、大きな考え方の違いがあったのだと思います。

また検索に関して言うと、Googleは検索が速かった、関連付けが速かったのです。でも、この検索という事柄一つとっても、コンピューターの専門家からすると1か所にすべてのウェブのデータを集めるというのはありえなかった。そんな無茶苦茶なことをしていいわけないというのが意見の大半を占めていました。

――使い方ですか。


石黒浩氏: ウェブサイトを閲覧するのと検索するのと、どっちに時間をかけていますか。その当時僕らは、検索という行為にものすごく時間をかけるとは思っていなかったわけですよ。必要な情報を探すというのはそんなに難しいことじゃないだろうと。ところが今は、検索ばかりしていませんか。だから検索のためにもっと計算資源を使ってもいいということを、Googleによって教えられたみたいなものですよ。電子書籍に関しては、何かこだわりがまだあって、足りない。何か妙なこだわりが残っているんですよ。

何かが生まれる時は、同時に何かがなくなっている


――こだわりが拭いきれていないと。


石黒浩氏: 1つは著作権という問題があるかもしれない。そうすると印税でお金を稼ぐんじゃなくて違う方法を考えないといけないかもしれないですね。広告とか。印税では稼がないと。印税という仕組みが、もしかしたら自由な出版形態においては変わっていくのかもしれません。

既存の価値観が全部なくなる可能性もあります。それはそれで、いいんじゃないですか。何かが引っかかっているんですよ。前時代にこだわってきた何かがなくならないと、世の中は変わらない。現状から変化しない。何がなくなるのかを、先に考えてもいいかもしれないですよね。

理想の編集者は、「丁寧に文章を見てくれる人」


――石黒さんは本を執筆する際、編集者の方とは、どんな風なやり取りをされていますか。


石黒浩氏: 僕はあんまり長い時間打ち合わせはしないですよ。編集者の方とは大体2時間、話して終わりです。「こんな風に書きたいんですけど」「じゃあお願いします」といったやりとりですね。いま執筆中の原稿は、編集者の方といろんな議論を重ねましたが、それでも3時間くらいですね。

石黒浩氏

――石黒さんが求める編集者の役割、理想像とはどんなものでしょうか。


石黒浩氏: 書いた後にちゃんと丁寧に文章を見てくれる人がいいですね。例えばこの原稿は、校正の段階で、たくさん修正されましたけれどすごく丁寧な編集者の方だったので感謝しています。だからこれ、1週間ぐらいで原稿を書いて、その後構成の時間に1週間、2週間かかりましたね。修正するのはやり取りなので、トータルの時間は短いですけど丁寧に見てくれました。

今後はSF小説も書いてみたい


――今後の展望を伺います。


石黒浩氏: いままでは自分の専門領域に関する本や、一般向けの本にしても、やはり研究領域に関係した本を書いていたんですけれど、それとは別に、SF小説を書きたいと思っています。筋は大体決まっています。書くと決めたら1週間で書きあがりますね。まずは、頭の中を整理する為にも、一度書いてみます。全部吐き出さないと頭の中で考えがグルグル回っちゃうので。まずはアウトプットして、それをもとにまた次のステップに進む。いま出版社原稿を待ってもらっているので、早くしないとそろそろ怒られそうですね。(笑)

(聞き手:沖中幸太郎)

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