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世界中の本好きのために

山形浩生

Profile

1964年東京生まれ。東京大学工学系研究科都市工学科修士課程、およびマサチューセッツ工科大学不動産センター修士課程修了。大手調査会社に勤務するかたわら、地域開発や政府開発援助(ODA)のコンサルタントとして活躍。科学、文化、経済、コンピュータまで、広範な分野での翻訳と執筆活動を行う。著書、訳書は多数に渡り、『クルーグマン教授の経済入門』(日経ビジネス人文庫)、『服従の心理』(河出書房新社)、など多数。近著に『邪悪な虫』、『邪悪な植物』(ともに朝日出版社)、『都市は人類最高の発明である』( エヌティティ出版)、『ヤル気の科学 行動経済学が教える成功の秘訣』(文藝春秋)。

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読書は気軽に〝ちぎり読み〟して自らの肉とせよ



本業として著名なコンサルティング企業の上級コンサルタントを務め、地域開発や政府開発援助(ODA)のコンサルタントとして活躍していらっしゃる山形さんは、その一方で翻訳家や評論家として幅広い分野で名をとどろかせています。自ら『プロジェクト杉田玄白』などを主宰し、気軽な翻訳が入手できる事により、文化的発展ができるような活動なども精力的に行っている山形さんに、ご自身の読書法や仕事術、また未来の電子書籍の使い方についてのアイデアなどをお伺いしました。

本業のコンサルティングではデータを分析し、世界を飛びまわる


――早速ですが、今現在のご自身のお仕事について、読者へご紹介いただけますか?


山形浩生氏: 僕は、本業はODAのコンサルタントです。インドやエチオピアに行って、投資が改善するにはどうしたらよいかとか、今後日本企業や他国の企業が進出すべきか、せざるべきかなどを検討します。またデータの分析などもしながら、日本企業が進出する場合はお手伝いをするという風な仕事を、主にやっております。

――エチオピアでは、どのような投資が対象なのですか?


山形浩生氏: エチオピアには、日本企業はなかなか進出しないのですが、例えば中国やインドの会社が、医療関係で進出する事はよくあります。また、皮革製品のクオリティーが高いので、それを目当てに進出してくる企業もあります。ちょっと変わった所では、生け花、切り花を、最速でヨーロッパに空輸するビジネスも大きな産業になっています。そのようなジャンルを狙った投資というのがヨーロッパ方面からはたくさんあるわけです。日本からはまだあまり投資されてないのですね。そこは悩む所です。今後『来なさい』と言うべきか、うーん……。でもそれなりに苦労もあるでしょうし……。

――それなりの苦労とはどんなものですか?


山形浩生氏: まず、日本からは距離的に遠いし、拠点を構えるのも一苦労します。あとは、場所柄ならではの色々な問題もありますね。アフリカのあの辺りに進出したいという事であれば、例えば『ケニアやタンザニアにも行ける』そんな可能性も検討できますよね。単に最終目的が『ヨーロッパに進出したい』という事だけなのであれば、何もアフリカのエチオピアでなく、直接ヨーロッパに進出したら?とアドバイスもできる。ヨーロッパに比べるとやはりエチオピアはインフラが整っていないし、港もそんなに整備されてないですしね。

山形浩生氏

コンサルタントから見た『東アフリカ進出』の難しさ


――エチオピアは、今どのような政情ですか?


山形浩生氏: 周りのあらゆる国と戦争をしているのですが、それでも国内は安定していますね。企業が進出する上では、治安の心配をする必要はありません。(注:本インタビュー実施後の8月にメレス首相が急逝し、今後の状況はまだ様子見中。途上国は各種政策がかなり属人的なことも多く、そうした面のリスクも無視できない。)ただ、もちろん労働者の質の問題はありますし、法律があまりきちんと整備されていないので、トラブルがあった時には少々面倒ですね。裁判をするかどうかや、もめごとを解決するための裁判費用が被害額を上回ってしまったケースも結構あって、面倒くさい事があります。あとは手続きがはっきりしていない事などが問題です。アメリカとかヨーロッパには発展途上国支援のための免税枠があるので、エチオピアで生産すると無関税で大量に輸出できるんです。だから、安い服をエチオピアで大量生産して、そのままヨーロッパあるいはアメリカに大量に投入できるんですが、日本企業はそこまで割り切った商売のやり方はあまりしませんね。

――割り切った商売とはどういったことですか?


山形浩生氏: 例えば中国製品というのは品質は安かろう悪かろうです。でも「ボタンが取れたら新しいのを買えばいいじゃん」と消費者も割り切るし、メーカー側もそれを見越した作り方をする。日本のメーカーはそこまで割り切らないですね。うちの品質が確保できないといって現地生産をあきらめたり、高値の殿様商売をしようとしたり。でも実際の消費者はそこまでの品質を求めてなかったりする。無駄に品質が良いってことがあったりする。そういった悩みはありますよね。

――なるほど、無駄に品質が高いという事もあるんですね。


山形浩生氏: エチオピアには工場のインフラがないとか、労働者の技能が低いという問題もあるので、日本並みの品質は困難ですが、中国やインドの企業のスタンスは、『シンプルなモノをとにかく安く作る』というものです。『曲がっていてもいいからボタンが付いていればいいんだ』という感じなんですね。日本の企業は、それだと日本並みの製品の品質が保てないと悩みますね。「日本並みの品質を作ろうとするのが間違っているんだよ」とも思いますが、もちろん方針として日本並みの品質が希望であれば、「まだ環境が整ってないですね」と言わざるを得ないですね。そういったお話を色々させていただいています。

3分の1は海外で仕事 ―日本企業と外国政府の橋渡し―


――普段から日本と海外を行ったり来たりされていると思うのですが、日本にはどのくらいいらっしゃるのですか?


山形浩生氏: 大体、年間の3分の2ぐらいは日本にいますよ。

――海外は色々な地域に行かれるんですか?


山形浩生氏: そうですね、その時のプロジェクト次第です。だから日本の企業の担当者の方とご相談すると同時に、インドやエチオピアの政府に対しても『日本企業に来てほしいんだったら、この辺整えて』とか、『人材育成頑張って』とか、『こんなややこしい手続きだとやってられないから、もう少しここをもっと簡単にしてね』とか、そんな話を政府の担当者と打ち合わせします。ODA関連の業務ですと、『日本政府がお金を貸してあげるから、ここの所でもう少し人材活用しなさい』とか。『ODAを出してあげるから、ここの道路を少し整備したらどう?』などという交渉もします。

山形流スタイルはいつから生まれた?


――山形さんは民間と公共の両方の面で仕事をなさっているのですね。山形さんは、ストレートに、そしてシンプルに物事を仰るといった印象をホームページでの文章や評論でもお見受けしますが、いつ頃からそのようなスタイルに落ち着かれましたか?


山形浩生氏: 高校や大学の頃に本を読んでいて、「書かれていることがよく理解できない」という事はよくあるわけですが、ときどき「これはずいぶんくだらないことを難しく言っているだけじゃないの?」と何度か思った事があったんです。だんだんそれが増えてきて、「自分はこういう他人に無駄な苦労をさせるような文は書くまい」と思うようになりました。あとは僕が翻訳した本で『クルーグマン教授の経済入門』という本があるんですが、そこに「経済において大事な事は3つだけだが、ただこの3つの事をどういう風にすれば改善できるかというのは実は誰もよくわかっていないのだ」という事をはっきり書いてあった。それを読んで「だからこれまで本を読んでもわからなかったんだ。専門家だってみんな実際はわかっていないのに、それをはっきり書きたくないこともあるんだな」というのが非常に納得いったんです。みんな分からないなら「分からない」、知らないなら「知らない」とって書いてくれればいいのにと思うんですよね。それから僕は自分でも知らない事は「知らない」と言うようになりましたね。

コンサルティングと翻訳、二つの仕事をどう両立するか


――山形さんの仕事術についてもお聞きしたいなと思うんですが、訳書と共著を合わせると100冊を越えてらっしゃると思うのですが、普段のコンサルティングのお仕事とは違う執筆のお仕事はどのようにされるんですか?


山形浩生氏: 年間の3分の1日本にいない事が、二つの仕事の両立を非常にやりやすくしています。例えば、僕がコンサルティングの仕事で海外へ行って現地の役人に、「こんなデータが欲しいんだけど」という話をしたとします。するとみんな人がいいので「わかった、じゃあ明日までには用意するよ」とうれしいことを言ってくれるんですよ。でも次の朝行くと、データは用意されていない。それで「昨日、親の具合が悪くて……」なんて言い訳される。そうすると、そのデータを分析するつもりだったのに、その1日の仕事が全部なくなってしまうんです。それが何日も続く。エチオピアだと外に行って楽しい所があるけども、これがマラウイみたいに遊ぶ所がない所だと、本当に何もする事がない。向こうのケーブルテレビは、同じ番組を10回も20回も1日に流していて、1回見れば十分なので、テレビで暇つぶしもできない(笑)。そうするともう半日翻訳に費やしますね。

――海外に行く時はデバイスや電子機器をたくさん持って行きますか?


山形浩生氏

山形浩生氏: いや、荷物は軽くが原則だから、デバイスは極力減らします。現地用の携帯電話、ラップトップ、あとはコンセントのアダプタと延長コード。ネットは必ずしも必要ない。最近はネットが整備されているとつい余計なサイトを見てしまうので、かえって雑音になって嫌なんです。一応、ラップトップの中に電子書籍あるいはPDFのファイルがあれば、まあ大体、翻訳のほうの仕事はできますね。

本は買った人のもの。自由に使えばいい。


――続いて本や電子書籍についてお伺いします。山形さんはホームページ上でも、著作権について、スッキリと書かれていらっしゃるかと思います。ブックスキャンでは蔵書の電子化を行っているんですけれども、それに関して山形さんは何か意見はありますか?


山形浩生氏: どんどんやってほしいと思います。僕は、本を買ったらそれをどうしようがその人の勝手だろうと思っているし、自分が書いた物だとか訳した物だとかも広く読んでほしいので、そこで僕がやれとかやるなとか言うということはないですね。スキャンしたら自分の作品が大切に扱われないと言うけど、本だって何をされているかなんて誰もわからないですよね。尻に敷かれているかもしれないし、何をしているかなんてわかりゃしない(笑)。

――そうですね(笑)。


山形浩生氏: あとはやっぱり、あちこち移動していると訳す本を紙で持ち歩くのは非常に重いから、それをスキャンして電子化したいという気持ちは非常によく分かります。流し読みやとばし読みには不向きかもしれないけれど、それは用途で使い分ければいいんだし。僕自身、今も電子書籍を使って便利に仕事してます。テキストデータを抽出できるならばファイルサイズも小さくなるし、検索などもしやすくなる。僕は全く文句ありませんね。

山形流 “電子書籍はこう使う!”


――山形さんは電子書籍を利用されていますか?


山形浩生氏: そこそこ利用しています。訳す本などは、今でこそ原著がPDFとかワードで来たりしますけれども、そうでない本もあるんです。古い本もあるし、電子データをくれない著者とかに、「こういう事情で分厚い本を持って歩きたくないから電子データをくれない?」と言うと、「それじゃノンディスクロージャー・アグリーメント(秘密保持契約)にサインしろ」なんて要求するところさえ未だにあるんです。「そんな七面倒くさい」と思うし、それこそKindle版を買ってしまった方がずっと早かったりする。安いもんですし。

――主にお仕事でお使いなんですね。


山形浩生氏: はい。まあ仕事以外も本当に分厚い本とかになると、やっぱりKindle版ですね。持ち運びが楽だし、検索できますしね。結構、移動中にも使ったりしていますよ。

――日本語の電子書籍はいかがですか?


山形浩生氏: 正直に言って、日本語はまだ1冊も買った事がないです。特に電子版で買わなきゃいけないような物があまり出ていないですよね。それこそ自分の読みたい本といえば、例えば自分が訳している本とかですけれども、そういうものはまだ電子書籍としては出回っていなかったりするので日本語の電子書籍は買ってないですね。

今ハマッている『昆虫食』の本とは


――最近読んで面白かった本は何かありますか?


山形浩生氏: 面白い本はいくらでもありますよ。『世界昆虫食大全』 (三橋淳著・八坂書房刊)とか。日本を含めて世界で虫を食する文化がたくさんあるわけですけれど、そういう記録を全部集めて、「ここはこんな風な文化をもって虫を食べる習慣がある」という事をずっと記述した結構面白い本なんです。僕もあっちこっち行って虫を食べるのが好きなので。

――虫を食べるのがお好きなんですね!


山形浩生氏: でも虫の中でも苦手なものがあって、韓国の蚕のように、中が柔らかいものは苦手ですね。ラオスとかではコオロギのいため物とかが結構出てきたりするのですが、それはパリパリしていておいしいのです。それこそエビのいため物みたいな食感ですね。現地の人は別にゲテモノだと思って食べているわけじゃありません。日本人の場合だと、一緒に仕事でラオスに行っている時にコオロギを出されて、見なきゃ食べられるという人と、コオロギだと思っただけでダメという人と、いろいろとレベルがあるみたいですね。

山形浩生氏

――虫を常食もしくはメニューとしておいてある国はどれ位あるんでしょうか?


山形浩生氏: 熱帯地方の国は結構多いですが、ヨーロッパ、アメリカ、寒帯の寒いほうの地域は少なくなりますね。虫は良いタンパク源になるのですが、やはり虫のいい所は『そこらにたくさんいる』という事なんですね。寒くて虫がたくさんいない所には、あまり虫を食べる習慣はないようです。

―― 一番インパクトに残った虫料理は何でしたか?


山形浩生氏: 見た目ですごかったのは、カンボジアで売っていた巨大なクモのフライみたいなものでした。それこそ、よく昆虫モノのホラー映画に出てきそうな、黒い毛むくじゃらなクモをフライにして食べるんです。でも食べるとコリコリしていておいしかった。肉みたいな部分は多少あって、比較的カラっとした感じですね。そうは言っても、僕が虫を食べた数はあまり多くないですよ。虫食自体が世界中で廃れてきていますし。都市化でなかなか自然の虫が取れなくなってきていることが多いようですね。それを補うために虫を養殖しているところもありますが、それなら変にコオロギを大量に育てるよりはニワトリを育てたほうがタンパク源として安上がりかもしれませんし。

――虫以外の食事で何か挑戦してみたいものはありますか?


山形浩生氏: パラオにいるコウモリがうまいと聞いているので、これはちょっと食べてみたいなとは思います。普通のコウモリは、他の動物の血を吸ったり虫を食べたりしているので結構臭いんですが、パラオにフルーツラットという果物をかじって果物の樹液で生きているコウモリがいて、非常においしいようです。

電子書籍が普及するカギとは


――面白いお話だったので、ついつい話が逸れてしまいましたが、本の話に戻します。電子書籍を実際に使われてみていかがでしたか?


山形浩生氏: よい面では、やっぱり電子ペーパーみたいな物は、見た時には結構びっくりしますよね。悪い側では、やっぱりモノとしてまだ完成しているとは言い難いと思います。例えばe-Pub形式だと、「えっ、〝注〟って付けられないの?」という辺りでびっくりします(注:新しいバージョンでは対応するようになったが、未だに多くの電子本では、特に脚注の処理はきわめていい加減)。昔の本では、「〝注〟が全部なくなったら意味ないじゃん」というような本が結構あるんですよね。でもそれが平気で売っているし、なかなか返品もできない。だから、まだ買うのは怖い面がありますよね。フリーで出回っているようなものだったら、仕方ないなという話で済むんですけれども。これは商品としての欠点の一つだと思います。色々な人が言っている事ですが、「今の紙の本を真似ようとしているとダメなのかな」ということがあるけれど、「じゃあどうすればいいのか」というのは誰もわかっていないですよね。

――電子書籍のどういった部分を伸ばしていけばいいと思われますか?


山形浩生氏: 検索みたいなものをもっとうまく使えるはずだな、と思います。ぼくが電子書籍を買う場合は、自分の訳している本を買って翻訳に使うのと、もう一つは引用部分をチェックするために原著を買うというのが多いんですね。この引用部分の確認を重視する使い方だと、検索できるというのが一番有り難い。だから検索機能を今の電子書籍のあり方ともっとうまく組み合わせて使えればという気はしているんですよね。最後に索引とか付いていますけれども、索引ってあれば便利な面もある一方で、かなり限られた使い方だと思うんです。それよりは検索機能を使って、例えばこんな単語はこんな所で使われているとか、自由にリンク出来るというのがメリットだなと思うんです。

――なるほど、検索と組み合わせた新しい書籍のあり方ですね。


山形浩生氏: もともとウェブもそうですけれども、ハイパーリンクで他の情報とつながれるというのが、ウェブが最初にできたころには一つの夢としてあったわけですよね。電子書籍は今、作品ごとに一つの端末の中で完結しようという風な感じになってきていると思うんですが、大体の電子書籍もネットにつながっているし、それをもう少し活用したあり方というのがあるんじゃないかと思う。初めてハイパーテキストとかをやっていた時の、みんなの考え方というのが、もっと見直されていてもいんじゃないかと思うんです。そうすることで、もっと本のあり方が変わってくるんじゃないかなという気がするんですよね。

気軽な流し読み ―もっと適当に読書して、もっと皆にたくさん意見を言ってほしい―


――最後にお伺いします。山形さんにとっての読書とはどういうものですか?


山形浩生氏: うーん。何でしょうね。あまり僕にとっては、読書をするっていうことが、大それた事ではないんですよね。あまり身構えずにちぎっては投げ、ちぎっては投げて適当に読めばいいんじゃないかと思っている。あと、読んだ本について、みんながもう少し勝手にものを言うようになればいいんじゃないかと思うんですよね。

――あまり「読書とは」というように身構えるものではないですか?


山形浩生氏: そう思っています。本って多分、どの本を読んでも、最初から最後まで全部目新しい主張が入っているというのはあまりない。ほとんどの本は、僕は5行ぐらいで要約できると思っています。僕の書評というのは大概そうなんですけれども、「つまり君はこれが言いたいのね」という一言がわかればいい。そんなに有り難がって読まなくてもいい。一言一句、吟味しながら読んでも、そんなに得るものがないと思っているので、もっと気軽な流し読みのすすめを言っていきたいなという風には思っていますね。

――なるほど、気軽な流し読みのすすめですか。面白いですね。


山形浩生氏: 僕が一つ、いつも思っているのは、紙の本だと、ペッペッペッと流し読みがかなりできるけれども、電子書籍でなぜそれがやりにくいのかという事がまだよくわからないんです。本の厚みがあって、本の最後の方というのが分からないせいなのもしれません。適当に真ん中あたりを開く、というのがしにくいせいもあるのかもしれない。何かやりにくい。電子書籍ならではの流し読みのしやすさみたいなものが追求できれば、とたまに思う事があるんです。慣れのせいかもしれないんですけれども、色々な本の査読とかを頼まれた時に、紙で読むと要約しやすい。その違いは何なのか分からないけど、紙で読む時のように流しながら読むということが、電子書籍で仕組みとしてできると、かなりうまくいくんじゃないかなと思います。将来はコンピューターが本を解読して、自動的にまとめてくれたりすると素晴らしいなと思うんだけれども。

――コンピューターが本を要約したら画期的ですね。


山形浩生氏

山形浩生氏: だんだん意味の解析とかをし始めているので、一部はできるんじゃないかなと思うんですよね。まだ普通の本だとできないかもしれないんですけれども、例えば、色々な所が出す報告書であるとか、世界銀行の本であるとかは大体、定番の書き方があるんですね。段落があって、段落の最初の行に段落のまとめがあって、以下はそれを説明するというやり方。だから段落の最初の1行だけ読んでいけばいいですよ、という風な指導のされ方っていうのはよくしますよね。現実はそこまで完全に機械的じゃないんですけれども、もしコンピューターが自動的にまとめるとしたら、最初のうちは機械的でもいいから最初の段落の1行目だけ抽出して読ませてくれる機能というのを、電子書籍に設けてくれるといいなと思いますね。まず娯楽として読んで、面白ければ全部細かく読むというように、今の本で目次や見出しからの行き来するっていうようなことが、電子書籍でもできると便利だなとは思います。文藝春秋さんで出している訳書だと、編集部からの注文で「それぞれの各章ごとに要約を付けなさい」というのがあって、原著にはない各章の要約、ポイントが訳書に付いています。特に色々なビジネス書だとかハウツー書だと、それを出版社側で少し足せば、随分見方も違ってくるし、試し読みしやすくなりますよね。そこから他の本も少し読んでくれるんじゃないかという気はちょっとしますね。

新しいソーシャルリーディングのすすめとは



山形浩生氏: Kindleで僕が一つ面白いなとは思っているのは、読んでいると、ある箇所に「他の人がマークしています」というのを見せてくれるんですね。ある人はその箇所が大事だと思いましたという印なので、それをうまく今流行りのクラウドソーシングみたいな事をすれば、「この本で重要なのは、こことこの文とこの文とこの行ね。ここを流し読みするとこれはわかります」というまとめが出せますよね。

――それはソーシャルリーディングのようなものでしょうか?


山形浩生氏: そうですね。昔あるコンピューターを使ったアーティストが、新しいワープロソフトというのを開発していていたんです。そのソフトは、文字あるいは単語を入力する際に、次の文字を入力するまでに掛かった時間によって、フォントの大きさが変わってくるというものなんです。これで何が分かるかと言うと、「この文字や単語を入力する時に、この人は随分悩んでいる」というのがわかるんですね。「フォントが大きくなっている文字までは書き流していたけど、フォントが大きくなっている文字の辺りでは迷っているというのがわかる」というようなソフトで、ちょっと面白いなと思いましたね。

――すごいですね。それは実際に発売されたんですか?


山形浩生氏: 試作まではされたのかな。初台にあるNTTの美術館に一時展示されていたんですけどね。そういう機能を組み合わせていくと、ただのテキストじゃなくて、テキストの書かれ方とか、他の人がどう思っているのかとか、あるいはまとめとか、そんな方面で差が出てくると思うんです。全部読んでいられないけれども、他の人がどこを読んだかというのが分かるので話題についていけるとかね。それは多分、僕の読み方とも多少共通しているんです。要するに、大体わかっている所は飛ばして、「これは大事だけれども、ここはわかっていない」などという、重要な所だけ読むという事がしやすくなるんじゃないかとは思うんですよね。

(聞き手:沖中幸太郎)

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