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世界中の本好きのために

村上憲郎

Profile

1947年生まれ、大分県出身。京都大学工学部資源工学科卒業。日立電子、DECを経てノーテルネットワークス日本法人代表に就任。2001年、ドーセント(米国の人材教育会社)日本法人を立ち上げたのち、2003年4月よりGoogle米国本社副社長兼日本法人代表取締役に就任。2008年12月9日に退任し、2009年1月1日より同社名誉会長。現在は同社の経営からは退き、村上憲郎事務所代表を務めている。豊の国かぼす特命大使。主な著書に『村上式シンプル英語勉強法-使える英語を、本気で身につける』『村上式シンプル仕事術-厳しい時代を生き抜く14の原理原則』など。

Book Information

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日本人よ! もっとたくさん本を読め!



2008年末にGoogle米国副社長兼日本法人社長を退任し、その後名誉会長も務めた村上憲郎さん。日本のIT創生期からずっと業界に関わっており、e-ラーニングの分野の第一人者になるなど、「先見の明がある」トップマネージャーとして、脚光を浴び続けています。現在では、その仕事術や勉強法を活かした「村上式シンプル英語勉強法」や「村上式シンプル仕事術」などの著書も出版。そんな村上さんにご自身の読書術や、「目利き」として生きる秘訣を聞いてみました。

昔から、空想科学小説が大好きでした


――「IT業界の目利き」として知られる村上さんは、かなりの読書家としても有名でいらっしゃいますが、いちばん最初の読書体験というのはいつ頃ですか?


村上憲郎氏: 小学校の頃なんかだと、周囲では貸本屋で漫画を借りている人が多かったんです。でも、僕はそうじゃなくて、『少年少女空想科学小説全集』みたいなのを読んでいましたね。もともとが、理科系というか、未来志向というか、新しいものが好きな気質を持っていたんでしょうね。

その中で本当に印象に残っていて、筋から何から全部覚えている本もありますね。あらすじとしては、第二次世界大戦の時にイギリスの爆撃機がドイツを爆撃して帰る時に、どこかの島に不時着して、夜が来て眠った。それで、目が覚めたら真っ暗な中に月が出ていると。ただ、それは月じゃなくて穴から見える空なんですね。2人は自分たちの体重で砂地でだんだん沈んでしまったんです。そこで、地底の王国みたいな所に行くんですが、そこがなぜか共産主義社会になっているんです。その世界では、地底にも関わらずジェット機が飛んでいて。そして、いざこざがあって、逃げざるを得ないので、ジェット機で脱出する。どうやって地上に出たのかは良く分からないんだけど(笑)。

すごく印象に残ってるんですが、その小説の中では、共産主義社会はモノが溢れていて、デパートみたいな所に行くとみんな勝手に欲しいものをピックアップするだけで、お金がなくても大丈夫な世界だったということ。その辺りが記憶に残るという辺りが、子供ながら左翼的なものに惹かれるという性質があったんですかね。

左翼運動も今とは違って、九州だと向坂逸郎という先生の率いる向坂派という社会党の中でもうほとんど共産党よりも左じゃないかという人たちがやっていたんです。その先生は、九州大学の経済学部のマル系の先生だったんですけど。九州って炭鉱の人が多いし、長崎の造船所のあの辺りとかは、めちゃくちゃ労働運動が強かったわけですよ。

今にして思えば、どこか親の会話とかから左翼の話が入ってきて、でも片一方で「あの人はアカや」という話も入っていたわけだから「アカは怖い」というような話も親たちはしていたわけですよね。子供の頃から染まっていたわけじゃないけれども、そんな話が記憶に残っているということを考えても、自分は生まれついての左翼だったのかもしれませんね。そういう変革のパトスのようなものが血の中にあるんじゃないかな。

生まれ変わりはあまり信じていないんだけれども、生まれ変わりだとすると左翼学生が学徒動員で特攻隊に入って死んで俺に乗り移った、つまり、父が戦争から帰ってきて母親とセックスをして私が受精した時に彷徨っていた魂がピッと入ったとか(笑)。こういうことを今頃は思ったりしますけれどもね。

学生時代から「革命」や「新しいもの」が大好きだった


――すごい環境ですね。では、村上さんの「改革意識」というものは、もう生まれついてのものだったのでしょうか。


村上憲郎氏

村上憲郎氏: 昔から「新しいものがり屋」だったというのがありますね。僕は大学時代、学生運動をやってたんですが、60年代の学生運動は、結局、コテンパンに負けたわけです。手段を含め全体的に、稚拙極まりなく、思想もそれほど熟慮を重ねてそうなったわけではない。手っ取り早く世の中をバーンと簡単にひっくり返したい、全世界にダメ出しをしたかったっていうことなんです(笑)。

当時の新左翼の考え方というのは単純明快なんですよね。僕らのような鬱屈していた団塊の世代は、人数がめちゃくちゃ多くて、受験戦争もとてつもなく大変だった。それに対するストレスや鬱屈した気持ちがバーンと爆発した程度のものなので、思想的にレベルが高いということはないんですよ。志としては、当時おこなわれていたベトナム戦争や、大学の中の仕組みの旧態依然ぶりに、反対したかった。それだけなんです。

とはいえ、心根の奥では、「やっぱり、世界を少しでもベタープレイスにしよう」という思いは、ありましたよね。誇るわけじゃないけれども。だから、特に私は「この惑星をベタープレイスにしよう」という単純明快な志の根っこみたいな所は持ち続けてきている訳です。だから色々な仕事をしてくる中で、必ずそこに照らし合わせてきたんです。「俺は、恥ずかしい事はしてないよな」「これは世界をベタープレイスにするために一歩前進しているよな」と自分で思える事をやってきたつもりなんです。

まあ、全部が全部じゃないと思うし、思い出したら今でも赤面するような事もありますけれども(笑)。

――その革命気質が、Googleご在籍時はもちろん、いまのお仕事にも生かされているんでしょうか。


村上憲郎氏: 学生運動も「世の中ぶち壊そう!」という風な単純なことでもなかったわけだけど、例えばGoogleやITと相性が合うのは、やっぱり今までの仕組みを壊しながら、新しくて、より効率のいい仕組みを作りたいと思うからでしょうね。Googleぐらいになると、何か世間様の気分を逆なでするようなことを平然とやるわけじゃないですか。だから何かそういう所に通じていたのかもしれませんね。

あとは、昔から理科系の世界に憧れを抱いていたんです。たとえば「日常のスケールで見えている世界と違い、その背後の極微の世界とか宇宙とかいう所では、日常的な言葉で説明し切れない現象がある」という真理ですよね。実際、この世界には言葉では言い難い世界があるという風な事を考えていましたね。だから、その当時は「将来は、そういう事に携われたらいいな」という風におぼろげながら思っていたから。僕自身、高校時代は、数学や物理とか一所懸命勉強しましたしね。その動機はそこから来ていたような。

日本人の若者は、もっと理系の世界を勉強するべき


――では、高校時代はかなり一生懸命理系を勉強なさったんですか。


村上憲郎氏: 僕の高校一年の担任のときに、宮崎大吉という数学の先生がいたんですが、この先生が、高校の教師にしては珍しく現代数学が専門。本当の数学科を出た人だったんですね。みなさんの高校もそうかもしれませんが、僕の出た大分県立佐伯鶴城高校というのは、教師のほぼ全員が佐伯鶴城高校の前身の佐伯中学、旧制の中学から広島高等師範学校を出て、みんなUターンして帰ってきているという。世の中を全く知らないで、英語だったらコンサイス英和辞典を全部食べて覚えたような人とかね(笑)。

そういう類の田舎の秀才の成り上がりみたいな先生ばかりだったんだけれども、その中でこの宮崎大吉という先生は、九大の数学科を出てただけじゃなくて、その後、大分工業高専で教授になられたので、きっと修士号とかを持っていらしたと思うんですよね。そんな人に、本格的な数学の観点で数Ⅲとかを教わったわけです。受験勉強に飽きるとその人が特殊相対性理論の話とかをしてくれて。まぁ、高校生には全く分からなかったんだけれども。

でも、今にして思うと、私はもしかしたら文科系かもしれないんだけれども、結局、理科系ということになってしまいました。もっとも、文科系でも理科が分かった文科系というかね。よく理科が分からん文科系というのがいるじゃないですか? あれは困るね(笑)。

――たしかに、「理系ができないから」という理由で、文系に進む人は多いと思います。ちなみに、今、出版不況とかよばれていると思いますが、出版社のそもそもの役割というか、これからますます重要になってくる役割はどんな所にあると思いますか?


村上憲郎氏: 堅い本が本当に読まれなくなってきましたよね。我々の頃は古色蒼然たる岩波、朝日、共産党という左翼陣営の評論家がドライブした傾向があるから何とも言い難いところはあるにせよ、堅い本というと初版で一億数千万人いる日本で、残念ながらだけど一万部は売れていたんじゃないかと思うんですよ。初版だけで。でも、今はもう聞くと、そりゃもうコストの関係で一万部刷るけれども永遠に初版のままという。売り出した一年で売れるのは1000冊とか。下手をすると公立図書館向けにだけ売れているみたいな。

専門書的な堅い本になると、「先生がまず最初、買ってください」「配って、献本用にどうぞ」みたいなね、そんな状況になりつつあるわけでしょう。だからこれは出版社が悪いというよりも、一番心配をしているのは正直、日本人の知のレベルが急落しているんじゃないかと思います。

ブルーバックスや講談社現代新書など、「堅い本」こそ読むべき本


――読み手側の意識が低下しているということですかね。


村上憲郎氏: そうそう。忙しいというのはあるよ。GoogleやYouTubeがあるしね。Facebookもあるし。でも、そうは言いつつもググっても分からない事が山ほどあるわけですよ、世の中には。ググってウィキとか行ってチョロっと読んだところで「あ、この話はあの辺りの話だな」というのが分かるだけであって、本格的なこととなるとやっぱり書籍というのに辿り着いて、そこで基本的な枠組みみたいなものを学ぶという手続きは廃れていないはず。それなのに、ググってチョロっと読んだら、「あー、分かった」みたいな気分になってしまっているんでしょうね。そこから先の発展性がないというか。大前提として、「忙しい」というのがあるんだろうけれども、ちょっと調べた後の、もう少し先まで勉強してみようということに意識が向かなくなったということが最大の原因じゃないでしょうかね。

――現代では、インターネットがこれだけ普及している状態で、ネットの情報だけで完結してしまっているから、本を読むという行為が少なくなっているということですね。


村上憲郎氏: そうそう。別に、誰でも彼でも本を読めというわけじゃないんです。例えば、何人かは分からないけれども、昔なら進学校の生徒なら、1クラスで30人位は講談社現代新書やブルーバックス、岩波新書などを争うようにして読んでいたのに、いまではきっと5人位の割合になっているんじゃないでしょうか。

――あまり認めたくないですが、実際はそうかもしれないですね。


村上憲郎氏

村上憲郎氏: だからこそ、ここから立て直さないとダメだと思うんです。たとえば、元参議院議員の田村耕太郎さんなんかと言っているのは、「アメリカのエリート教育を取り入れるしかないんじゃないか」という話ですね。日本は昔、明治維新の後、大学を作って外国人の教師を呼んできて、西洋の文物を学んだわけですよね。その時、日本はまったく西洋の学問の素地がなかったので、それは仕方がないことだったんです。福沢諭吉先生はそのときに「いっそのこと英語にして、日本語をやめよう」というようなことを言っていたんですが、今からしてみれば、あれがもしかしたら当たってたのかもしれないな、と思わざるをえませんよね。

でも、その後に、色々な人達が一生懸命、英語の言葉を漢語に当てはめてなんとか学問のの日本語化を進めていったわけです。それから100年、ありがたいことに日本人は母国語である日本語で高等教育を受けられるという事になっているんだけれども、いまここに来て、その日本語が足かせになっていますよね。アメリカではボーディング・スクールというのがあって中高一貫みたいになっているんだけれども、私が考えているのは、このような中高一貫のボーディング・スクールを日本に作って、Ph.D.を持っているレベルの人が教師になったらいいんじゃないかと思うんです。いま、ポスドクの人たちが余っているとも聞きますしね。しかも、「英語“を”」じゃなく「英語“で”」授業をする。

つまり、日本の世の中の知的レベルが落ちている気がするんですよ。私も大学でときどき特別講義とかやるんですけど、その時に学生たちからの質問なんかを聞いていると、「あー、本を読んでいないな」というのが伝わってくる。それは、文科系だけじゃなく理科系も同じ。まあ、勉強していないですね。

私なんかは理科系に行った目的は「量子力学を勉強したい」、「相対性理論を勉強したい」という高校生の何とも言い難い学問への憧れだったんですよ。ただ、高校時代の先生が「理学部なんか行っても就職がないから工学部へ行け」と言うから仕方なしに工学部に行ったわけです。それでも教養の間は、現代物理入門とかいう所へチョロチョロっと勉強したんです。でも今私が、慶應大学の日吉の特別講義に行って話をして、今の学生達はどんなレベルかなと思って、言葉の端々に「ハミルトニアン」「線形独立」「波動方程式」とか言ってみて相手の顔色を見るわけだよ。そうしたらみんな、「ん? なにそれ?」って顔をするか、下向いちゃうんだよね。これは「あ、やってないな、お前ら」とか思っちゃいますね。

村上憲郎氏

――日本最高水準の私立大学の慶應大学でもそうなんですね。


村上憲郎氏: そうです。本当に、どうやって単位をとってきたんだろう…と不思議ですよ。一般的に学生の意識がすごく低いですよね。危機感がないというか。世の中はこれから更に厳しくなって、もう競争社会にどんどん放り込まれていくわけで、日本だけでなく全世界と大競争しなければならないわけですよ。もう「就活」なんていうレベルじゃないんです。いや、このままでは、本当に彼らにはまともな仕事はないと思うよ。

だって、グローバル採用なんかをやった日には、ハングリー精神に満ち溢れたインドネシアとかベトナムとかの若者たちと競争しなければならないわけですよ。だってもう彼らは英語がベラベラだし、意識も高い。それなら、大手企業はこうした学生たちを雇おうかなって、思うはずですよね。まあ、今後は若者にとっては非常に厳しい時代がくると思いますね。

――そういった個人のスキル、ハングリー精神を持って何かに取り組まないといけないはずなんですけれども、それには圧倒的に読書量が足りないということですね。


村上憲郎氏: 最近はハウツー本ばかりを読んでいる人が多いんですよね。でも、ハウツー本というか、あの手の本を読んで仕事ができるようになるなら苦労しませんよ。

「新しいものを感知する力」を上げるには、とにかく情報収集が大事!


――「新しいものを感知する力」だったり「世の中を見通す力」というものは、なかなか身に付きにくいものだと思うのですが、普段村上さんが気をつけていらっしゃることはなんですか?


村上憲郎氏: うーん、実は、僕はなんとなくこれから流行りそうなものって分かるんですよ。「それはどうやって分かるの?」と言われると、何とも難しいんだけどね。「アンテナを高く感度を上げる」というしかないですよね。そのためには、たくさんの本を読んで、できるだけたくさんの情報を組み込むんです。

だから、僕はあまり熟読ってしないんですよ。繰り返し繰り返し読むということは、哲学と宗教と現代物理とかの本ぐらいしかしないんです。あとは、帯を見て、内容を予想して、目次を見て、まえがきを読んで、あとがきを読んで。そして、もしも目次の中で思い付かなかった内容だなと思う所だけブワッと読んで、終わりですよ。これは自分でも考えつく話だと思われるところは、あまり読みませんね。

まず、その本の目次を見たら「ああ、こういう事を言っているのに違いない」という予測を立てるんです。とはいえ、こうしたレベルに到達するためには、ある程度世の中の知の枠組みを理解しておくことが必要ですよね。私自身は「フレーム・オブ・リファレンス」と呼んでいるんだけれども。それは、つまり人類がこれまで構築した知の枠組みみたいなものなんです。だからそれぞれの物が一体何であるかという位は、ウィキ程度には分かっていないとダメ。これが理解できれば、頭の中に書誌分類表のようなものができてくるから、本を見た瞬間に、言ってみれば図書館の司書さんみたいに、「この本はここ」「この本はここ」という具合に、それに基づいて分類していくんですよ。

――こうした「フレーム・オブ・リファレンス」はどうしたら自分の頭のなかに作れるものなんでしょうか。


村上憲郎氏: 講談社の現代新書やブルーバックスなんかで興味のあるものだけでもいいから、相当量、数多く読まないと分からないんじゃないでしょうか。まあ手っ取り早く手に入れるとしたら大学のシラバスをどこかで手に入れて、経済学部前期というのをパッパッパッと読んでいったりするのもいいかもしれないですね。

やっぱり本を読まなアカンですよ。最近は僕自身、かなり読書量は減っているけれども、やっぱり20代、30代、40代、50代って、私は、年間200冊ぐらい読んできていますからね。

――すごい量ですね…。3日に1冊ぐらいのペースになりますか?


村上憲郎氏: まぁ、そんなことで、未だに、書斎だけでなく、枕元と便所には読みかけの本が山になっているんですよ。なかなか減らないけどね。

わからないことや思い出せないことは、いますぐ確かめないと我慢できない


――そんなに本を読んでらっしゃったら、かなりたまっていきますよね。蔵書はどうやって管理していらっしゃるんですか?

村上憲郎氏

村上憲郎氏: 僕は蔵書が多いけれども、本は全く自炊してないんですよね。マンションだから底が抜けないとは思ったけど、もう カミさんから「これでは、床が抜けるからどこかに運んでください」って言われて、別の場所に運びなおしているんですよね。なんで、本を処分せずに他の場所を借りてまで保管しているのかというと、なにか本を読んでいると、「あ、あの本を読まなきゃあかん」と思うわけです。だから捨てられない。

そういう意味合いにおいては、あなたたちの仕事はもう少し続くとは思うんだよね。だってそれは、iPadやPCの上で読めればいいわけですから。検索をかけて当該のページに辿り着ければ。私の方法だと、本を取り出して、「たしかこの辺りだったな」という風に手で探していかなきゃいけないので、時間が掛かるわけですからね。だから、そこまでは、あなた達の仕事が多いに役立つ。「紙の本の電子読み」というのはそれを馬鹿にできないと思うんですよ。

でもね、はたして「全員がそこまでいく必要があるのか」というと、これは疑問ですよ。私の場合は、ちょっと病気みたいなものですからね。ただ、「あの本のこれはどういう意味だったか」という気になることがでてくると、それを確認するまで生きられないんです。例えばちょっと旅行をしていて手元に数冊しかなくて、それを読んでいて、「あ、あの話!」って思ったら、もう東京にこのまま帰って、自分の本をとりあえず確認してまた戻って来ようかというくらいですから。もう、次の日のアポの事はもう完全に頭になくなっていたりしますよ。でも、そうじゃないともう明日を生きられないんですよ。大げさに言うようですが。まぁ、病気ですけどね。

――村上さんにとってもう本は「なくてはならない存在」なんですね。


村上憲郎氏: 僕は、読まないで暮らしている人の気が本当に知れないんです。「あなたのお師匠さんは誰ですか」と言われたら、やっぱり本ですよね。もちろん本を書かれた方がお師匠さんということなんだけど、誰が一番ということじゃなくて、それぞれの分野で「この宇宙の秘密は書籍の中に既に誰かが言い当てている」とか。「このような問題があるということを私より先に気づいている」というね。

知的レベルが低下した日本人にとって、電子書籍は救世主となるか?


――たくさんの読書をしなければならないという中で、電子書籍という存在が、もっと普及してくると思います。誰もがほとんど本を読まないというこの状況に一石を投じるものになり得そうですか?


村上憲郎氏: 今の時点では、まだないんじゃないでしょうか。要するに日本の場合、皆さんご存知のように売れているのは漫画とライトノベルな訳ですよね。そして、もっとはっきり言わないといけないのは、いま電子書籍とと呼ばれているものは、紙の本の電子読みにしか過ぎないということ。私が言っているのは、本格的な出版社は、これからどういう風に活路を見出さなければならないかというと、デバイスとしては、最終的にはスマートテレビなんじゃないかと思うんですよ。

――スマートテレビですか?


村上憲郎氏: 要はマルチメディアデバイスのことです。スマホ、タブレット、スマートテレビというのはサイズの違う「スマート××」なわけですよ。それもPCの流れを汲んでいるという。PCがスマホになり、タブレットになり、スマートテレビになるわけですよ。私も日経電子版に、本来的な意味での電子書籍とは何か、そこで、スマートテレビの果たす役割とかについて、これまですでに、5、6回書いているけど、そこに書いてあるようなことを目指さないとダメだと思うんです。

じゃあどんなものかというと、アップルのiBooks Authorをイメージしてもらうとわかりやすい。これはアップルが発表した、電子書籍を作成できるアプリケーションのことで、iBooks Authorで作成された電子書籍は、Appleの電子書籍ストア「iBookstore」を通じて有償・無償で配信することができるんです。

電子書籍というのは、ピョッとクリックすれば動画が出てくるわ、テキストがでてくるわ、スチール写真はでてくるわ、アバターで池上彰みたいな人が出てきてワーワーワーと説明してくれるわ、ソーシャルとかとも全部絡んでいる万能のメディアコンテンツになるわけなんです。つまり、ひとつのコンテンツに対して、「私は本を読んだんでしょうか」「映画を見たんでしょうか」「解説を聞いたんでしょうか」という時代が来るわけです。

――もはや出版社がテレビ局のような形になる…ということでしょうか。


村上憲郎氏: 出版社もそのうち、「なんかウチ最近テレビ局みたいな感じになったな」という事態になるかもしれない。編集者はそのうちディレクターみたいになる。というか、そうならないとダメなんですよ。それが電子書籍なんです。いまの電子書籍は、しょせん紙の本の電子読みに過ぎない。もちろん、それは、特に日本のように版元在庫切れみたいなものが山ほどある国では非常に大事です。でも、先生方は一銭にもならないで、「増刷しますか?」と言ったら「先生が費用もちます?」みたいな話になっている訳でしょう? それを、今だったらブックスキャンさんがやっているように、自炊もコストがほとんど掛からないようになってきているわけだから、そういう風にして進めていけばいいと思うんです。

しかも新しい本も全部ソフトで組んでいる訳だから、もう一気に電子化できますよね。そうすると日版さんとかトーハンさんとかに貸し借り関係を作らなくてもいい。いまは、なんでもいいものを刷って、段ボールで送り返されて、あとは溶かすしかないのかな、みたいな話になっている訳でしょう? 

あと、いま、電子出版と呼ばれている紙の本の電子読みのところでは、もっと堅い本の電子化をすればいいと思います。たとえば、神田の古本屋を回ってもないわ、みたいなやつを出せば需要は引き続きあると思うんですよね。しかも、コストはあまりかからないという形で本業の方を少し立て直しして、キャッシュフローがどれ位だというのを見ながら、そこでもし余裕ができれば、新しいマルチメディア電子出版、というか本来の電子出版が出てくるんじゃないかな、と思います。

(聞き手:沖中幸太郎)

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